タイトルだけで既に長いですね。専門外の方のために導入から書きますが,ある方が亡くなった際の,その後の法事を誰が行うか,遺骨を誰が弔うかなどについては,遺産分割とは別の手続が用意されています。これが祭祀承継審判です(家事手続法上の用語は「祭具等の所有権の承継者の指定の審判手続」)。(民法897条,家事事件手続法190条)。実務上は遺産分割(調停)手続の中で事実上協議され,話し合いが付かない見込みの時には家裁から審判申立を促される,という流れが多いのではないでしょうか。
標記の東京高裁決定は,原審の東京家裁が《被相続人が信仰していた宗教団体で,被相続人と共に熱心に活動していた息子一族に対して祭祀承継者たる地位を認めた》のに対して,基準として「祭祀承継について推認される被相続人の意思,被相続人との親族関係,被相続人との生活関係上の交流の親密度,被相続人との親和性,祭祀承継の意思及び能力等を総合考慮して決めるべき」というものを挙げ,息子一族とは祭祀承継について対立していた四女に対して,《四女が被相続人の生前,長年に亘り同居ないし隣に住んで日常的に交流していたことや,被相続人の妻が当該宗教団体とは別のお寺に被相続人の戒名をつけてもらったり遺骨を管理してもらっていた》ことなどを細かく認定して,四女を祭祀承継者と決定し,原審の結論を覆しました。その上で,息子一族に対しては遺骨と埋葬許可証を引き渡すよう命じています。
なお,上記の基準自体は平成18年の東京高裁決定が定立したとされており,その後広く支持されている基準と言われています。
さて,原審(平成28年)のスタートから約1年半程度かかっていると見られます。この種の紛争を事前に防ぐことはできなかったのでしょうか。
冒頭で挙げた民法897条1項但し書きが,「ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する。」と定めています。指定の方式には制限がないとされ(口頭・書面・明示・黙示の如何を問わない)ています(新版注釈民法(27)p.131)。しかしながら,紛争防止の趣旨からは,遺言書によって明示的に指定しておく方法が勧められます。
ご参考までに,祭祀承継論の基本的初歩的な知識を若手弁護士が身につける上では,梶村太市「裁判例からみた祭祀承継の審判・訴訟の実務」(日本加除出版2015年)の総論部分をぜひ学んでみて下さい。
参照すべき判例:東京高等裁判所平成18年4月19日(判例タイムズ1239号掲載)
弁護士小川 中
2019年6月20日