週刊朝日2019年7月5日号「7・1大改正 絶対に失敗しない相続」

小川法律事務所 記事批評

 平成30年改正相続法の本格施行時期が迫って参りました。私も主に弁護士から基本的な改正点や留意点をよく聞かれます。当然ですが現行法の原則をまずはしっかり理解していることが必要ですね。

 さて、標記の週刊朝日の記事です。記事前半20頁から21頁で改正点と施行時期を一覧にまとめています。変更点の記載はまずまず正確で,注意すべき点(「注意点と備え」)についても端的にまとまっています。よくできている表だと思います。
 細かいことを言うと、表の中で触れられている、「遺留分をお金で請求できる」、という改正部分についての紹介は、むしろ「お金でしか請求できなくなった」というテクニカルには重大な改正なので(改正後1046条1項)、注意が必要です。

 若干ひっかかりを感じる記事がその表の次のページから始まる「自筆証書遺言はこう書け」という記事です。まずサンプルが明らかにワープロ打ちです。ここはライターの手書きでも良いので、手書きのサンプルを用いることで「財産目録はワープロ打ちで良くなったけど他は自筆のまま」というイメージを出せたのではないでしょうか。

 また、この記事の本文で、(施行内容未定かつ未施行(2020年7月10日予定)の)法務局の自筆証書遺言写しの保管制度についても並列的に紹介されているのですが(22頁4段目)、来る7月1日施行の制度と混同する危険性があります。さらに、記事内には、遺留分に配慮せよ、という記述もありますが、基本的に遺留分の計算はかなり複雑で、専門家の関与が無難です。

 私はかねてから自筆証書遺言の利用は慎重に、という立場です。自筆証書遺言をすると、①検認が必要になるため、相続開始後、全ての相続人や受贈者の所在を調べて家庭裁判所に来てもらう必要がある(実務上欠席でも実施されますが、少なくとも調べて呼び出してもらわないといけない)、②認知症が疑われる人の場合、遺言無効訴訟のリスクが高い(公正証書についても遺言無効が争われることはもちろんあります。家庭の法と裁判2019年5月号掲載の東京高裁の裁判例はこのコラムでも紹介を予定しています)、③原本の破棄隠匿のリスクが否定できない、という多くのリスクが生じます。
 また、一度自筆証書遺言をすると、後に撤回遺言によって撤回されたとしても、「遺言としては存在する」ことから(破棄しない限りは)検認の対象となり、「自筆証書遺言は執行の開始に時間がかかるよ」と言われて公正証書遺言を作り直したとしても、遺言執行のスタートが遅くなるというデメリットがかかってきます。 
 この記事は自筆証書遺言のデメリットについて軽く考えすぎであるように思います。
 むしろ、自筆証書遺言で行くか,公正証書遺言で行くかの判断をまず慎重に行うべきです。一般論としては、自筆証書遺言を避けるべき場合として、①相続人の中に音信の取れない方がいる場合(音信が取れない方に対しても住所を調べて検認手続の呼出をする必要があるため)、②相続人以外の第三者に対する遺贈を含む場合(受贈者も検認手続の呼出をする必要があるため)、③法定相続分と極端に異なる分け方を希望する場合には、相続開始後の相続人の手間に留意され、公正証書遺言をお勧めします。

※ 参照文献
  概説改正相続法(堂薗幹一郎・神吉康二編著・きんざい2019年4月)101頁以下 

弁護士 小川 中
2019年6月25日

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