遺言で財産をもらうはずだった人が、遺言者より先に亡くなった場合の取扱い(遺言作成時にも注意すべき内容)

小川中法律事務所 遺言実務

 遺言で財産をもらうはずだった人が、遺言者より先に亡くなった場合、その財産はだれが取得するでしょうか。特定財産の場合を対象として考察します。なお、この点の理解は、ひるがえって遺言作成時の重要な配慮事項にもなりますので注意したいところです。

 掲題について大まかな原則から述べると、「遺言者の相続人が取得する」ということになります。
 遺言の文言が「遺贈する」「与える」など民法上の遺贈と解される場合には、民法994条及び995条第1項の規定により原則として遺言者の相続人が取得する旨が定められています。

 では、遺言の文言が「相続させる」という文言だった場合はどうでしょうか。
 まず、「相続させる」旨の文言については平成3年の有名な最高裁判例により、特定の財産を指定された相続人に単独で相続により承継させる趣旨である(遺産分割方法の指定)、と解されることになっています(最高裁判所平成3年4月19日民集45-4-477)。 

 そして、上記判例を受けて、掲題について、これも有名な平成23年の最高裁判例は、結論として、特段の事情のない限りはその遺言文言は効力を失い、遺言者の相続人が法定相続分により取得するとしました(最高裁判所平成23年2月22日民集65-2-699)。

 平成23年の最高裁判例の事案は、二人の相続人(子)のうち、一人に全てを相続させる(及び遺言執行者の定めの二か条のみの)遺言がなされており、その一人が遺言者よりも先に亡くなり、その後に遺言者が亡くなって、遺言者より先に亡くなった一人の相続人(孫)が代襲相続を主張したケースですが、遺言書が二か条のみだったこともあり、最高裁は二人の相続人(一方は代襲相続人)が法定相続分どおりで相続する、という結論を導きました。
 最高裁判所の趣旨としては、遺言者の意思はなるべく重視するけれど、特定の相続人に財産を相続させる旨の文言は、まさにその特定の相続人ひとりを対象とする意思であったと解すべき(なので代襲相続人を当然に優先させるわけにはいかない)、というものです。
 主要な部分を引用します。
 
「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない

(引用以上)

 最高裁判例が出てしまう重要な法解釈問題であり、対策が打てなかったことは当時の遺言作成アドバイスとしては仕方のないことにはなろうかと思いますが、このような判例がある以上は、現時点での遺言作成アドバイスとしては、遺言者Aが相続人の一人Bに財産を集中させ、さらにBにもしものことがあった場合にはBの代わりにDに対して財産を集中させるような遺言をプランニングする際には、補充的に、「Bが相続開始前に亡くなった場合には、Dに対して○○を相続させる(または、「遺贈する」)」という文言を加えることが必要であると言えます。

 弁護士 小川 中
 2019年10月2日

参考文献 新版注釈民法(28)相続(3)(有斐閣2004年補訂版)pp235-242(阿部徹)
     新基本法コンメンタール相続(日本評論社2016年)pp209-211(金子敬明)
     「事例にみる遺言の効力」大阪弁護士会遺言・相続センター編集
     (新日本法規2011年)pp72-75(小林寛治弁護士)


 

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